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「僕は昔からいつも自分を、色彩とか個性に欠けた空っぽな人間みたいに感じてきた。それがあるいは、あのグループの中での僕の役割だったのかもしれないな。空っぽであることが」

 

……

 

「いや、おまえは空っぽなんかじゃないよ。誰もそんな風に思っちゃいない。おまえは、なんと言えばいいんだろう、他のみんなの心を落ち着けてくれていた。……説明しづらいんだが、でもおまえがそこにいるだけで、おれたちはうまく自然におれたちでいられるようなところがあったんだ。おまえは多くをしゃべらなかったが、地面にきちんと両足をつけて生きていたし、それがグループに静かな安定感みたいなものを与えていた。船の碇のように。おまえがいなくなって、そのことがあらためて実感できた。おれたちにはやはりおまえという存在がひとつ必要だったんだって。そのせいかどうか、おまえがいなくなってから、おれたちは急にばらばらになっていった

 

──村上春樹《色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年》

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